Fianchettoとは、イタリア語で「側面」を意味する言葉である。チェスでは、盤の端に駒(ビショップ)を配置する陣形のことを言う。
マスターレベルのゲームではしばしば見られるが、ビギナーのゲームではあまり見られないのはフィアンケットを知らないせいでもあるかもしれない。
代表的な定跡には、白番ならKing’s Indian Attack(KIA)黒番ならKing’s Indian Defense(KID)がある。
ゲーム開始早々にポーンをぶつけ合うことが苦手で、じっくり陣形を整えてから戦い始めたいプレイヤーは、フィアンケットを試してみてもよいはず。
フィアンケットとは
フィアンケットとは、ナイトの前のポーンを突いて、そこにビショップを配置する陣形のこと。ビショップが盤の端で陣取る形になる。
一般的には、ポーンを1マス進めるレギュラー・フィアンケットが選ばれる。
さらに、フィアンケットの下段でキャスリングすることもできる。強固な守備陣形を築けるため、キングサイドではフィアンケットした直後にキャスリングが行われることがある。
また、ポーンを2マス進めるフィアンケットはロング・フィアンケットと言われる。この場合は攻撃的な陣形となり、クイーンサイドで組まれることが多い。
フィアンケットのメリット
- 盤上のもっとも長いラインを支配できる。
- 対角線上の相手ルークを狙える。
- 最短の手順でキャスリングまで持っていける。
フィアンケットのメリットは、盤上のもっとも長い対角線のラインを支配できるところにある。そのラインは盤の中央を通っており、攻防が繰り広げられる中央部にいつでも参戦できる状態となる。
フィアンケットのビショップは、対角線の相手ルークに攻撃ラインが当たる。ルークへの攻撃ラインが開いたときを見逃さないようにしたい。
逆に、相手がフィアンケットを組んだときは、自陣のルークへのラインが開いていないか、常に気を配る必要がある。
キングサイドのフィアンケットでは、最短の手順でキャスリングできる状態を作れる。しかも、展開した駒(ナイトとビショップ)が戦闘に巻き込まれずに済む。
序盤の攻防を避けて、まず陣形をしっかり整えたいプレイヤーに合っている戦法と言える。
フィアンケットのデメリット
- ビショップが落ちると守備が弱くなる。
- 目立つため攻撃目標になりやすい。
- ゲーム展開に応じて陣形を変化させにくい。
フィアンケットは、ビショップが要となる。そのビショップが落ちてしまうと、フィアンケットは急に弱体化してしまう。
とくにキャスリングしていた場合は、キング前にスペースが空いているせいで防御しにくい状態に陥る。
また、フィアンケットとキャスリングを組み合わせた場合は、一見でそれと分かる陣形であるため攻撃目標になりやすい。
盤の隅の狭いスペースで陣形を固めるため、ゲーム展開に合わせて形を変化させる柔軟さがないのは弱点である。
あと、フィアンケットのゲームでは、ビショップを失わないように気を付けなければならない。
フィアンケットの定跡で代表的なもの
- 白番:King’s Indian Attack、English Opening
- 黒番:King’s Indian Defense
King’s Indian Attack
King’s Indian Attackは、キングサイドでフィアンケットを組むKing’s Fianchettoの一種。略称のKIAと記載されることがある。
黒番がどのように手を進めてきても、着々と自陣で陣形を整えていくのが特徴。
d2にナイトを移動させてf3のナイトとリンクさせておくと守備がより固くなる。
English Opening
白番、黒番ともにフィアンケットを組むケースは少ないが、English Openingでは互いにフィアンケットを組む。
両者が盤のキングサイドに陣を張るため、センターからキングサイドで攻防が繰り広げられる展開になる。
King’s Indian Defense
King’s Indian Defenseは、d4に対する黒番のディフェンスである。略称のKIDと記載されることがある。
ゲームを開始して白番がセンターポーンを突いてきたとき、黒番もセンターポーンを突き返すといきなり駒のぶつけ合いが始まる。
KIDなら、駒のぶつけ合いを避けて、まず陣形を整えることができる。
センターポーンを突かないので、陣形は低くなる。
フィアンケットの崩し方
相手がフィアンケットを組んできたときには、崩し方がある。
- ビショップをビショップで相殺する。
- クイーンまたはルークを突っ込んでチェックする。
フィアンケットを崩すには、フィアンケットした相手のビショップを取り除くことが有効である。そのために、ビショップとビショップを相殺させる手筋を考える。
上の実戦では、黒ビショップをクイーンで後衛してビショップをビショップで相殺している。
ルークを使ってチェックするためにはaファイルかbファイルのポーンを取り除かなければならない。ポーンがクローズ(ポーン同士が交錯して進めなくなる状態)しないように気を付けたい。
フィアンケットが機能しなかった例
フィアンケットはビギナー向きではない
- 守備陣形を整えやすいが、狙われやすい。
- ビショップの攻撃機会がわかりにくい。
- ディスカバードアタックに慣れていれば有効。
フィアンケットはビギナーが扱いやすい戦法とは言えない。
ナイト前のポーンを突いてビショップを配置するだけの単純な手順は、ビギナーには覚えやすい。
しかし、フィアンケットの要となるビショップを安易に失わないように温存しなければならない。とくにフィアンケットの下段でキャスリングした場合は、ビショップを死守しなければならなくなる。
ビショップは、盤の中央部で繰り広げられる戦闘に参戦しやすいポジションに配置されているが、狙いのマスや駒が決まっているわけではない。進撃の機会を見極める力が必要である。
もちろん、対角線の相手ルークに攻撃ラインが当たっているので、攻撃のチャンスは見逃さないようにしたい。
フィアンケットのビショップは、ナイトやポーンを利用したディスカバードアタックに有効である。それゆえにディスカバードアタックを使いこなせていないと、フィアンケットの攻撃力を有効活用できないことになる。
白d4に対する黒番のディフェンスには有効
自分が黒番で、先手白番がポーンd4を突いてきたときは、King’s Indian Defense(KID)を選択してもよい。
ビギナーは、d4に対してd5を返すことが多い。しかし、直後に隣のポーンが突かれると、ゲーム開始早々に駒の取り合いになってしまう。
ポーンd4はクイーン前だけに、このポーンを失うとクイーンを取り合う展開になるケースもある。これを避けられるディフェンスが、KIDである。
相手が先手白番でd4を突いてきた場合にKIDを選択できるようにしておけば、ゲームに迷いが無くなって戦いやすくなる。
実戦:フィアンケット
フィアンケットの名勝負
チェスの棋譜の中から、フィアンケットの勝負を紹介したい。
4つのフィアンケット
1925年6月1日、マリエンバート(チェコ)で行われた大会のうちの一戦に4つのフィアンケットが対峙した珍しい場面がある。
チェスでは時折、相手と同じ手を指しながら見合いになることがある。どちらが先に均衡を破るかを見張るような緊張感のあるゲームになる。
4つのフィアンケットがどのように活用されたのか、ビショップの動きに着目したい。