Jean Georges Vibert (1840-1902)『フェッシュ枢機卿とチェスをするナポレオン1世』© Haggin Museum
ナポレオンオープニングは、英雄ナポレオンの名を冠したオープニングであるせいか、ビギナーがこぞって用いることが多いオープニングである。実戦でも「またか」と思うほど頻繁に見られる。
「勇敢なナポレオンでも、チェスの才能は凡庸だった」と後世で揶揄されてこの名で呼ばれるようになったことを知れば、このオープニングがそれほど優れていないことが分かるかもしれない。
後半にナポレオンが残した棋譜を掲載しているので、ナポレオンのチェスの才能がどうであったのかを自身で判断してみてほしい。
ナポレオンオープニングとは
ナポレオン・オープニングは、eファイルのポーンを突いて、開いたスペースからクイーンをfファイルに配置する。
続けてビショップをcファイルに配置して、あわよくば次手でチェックメイトを狙うことが狙いでもある。
チェスを始めたばかりなら、一度は、この安直なチェックメイトを経験するかもしれない。
しかし、このチェックメイトの手筋は簡単に防ぐことができる。
ナポレオンの防ぎ方
ナポレオン・オープニングで狙ってくるチェックメイトは、簡単に防ぐことができる。白クイーンの攻撃ラインf6に黒ナイトを配置すればよい。
その後、黒番は白クイーンを追い回す展開になるが、白クイーンが不注意でタダ取りされる位置に移動するケースによく遭遇する。
白クイーンをタダ取りできる機会を見逃さないようにしたい。
ナポレオンへの攻撃
ナポレオン・オープニングでクイーンが配置されたマスは、ナイトの移動線上にある。
ナイトでクイーンを攻撃するのは有効なので、タイミングを見計らって攻撃するのがよい。
黒クイーンを退治
ナポレオンオープニングで飛び出してきたクイーンは、ナイトで攻撃するのが有効である。
ナイトで攻撃されたクイーンが逃げられるマスは限られている。
✕で示したマスはクイーンを取れるマス。もしキング前のマスe6に逃げると、白番は次手ナイトc7でフォークできる。
また、フォークを防ぐには、クイーンはc7に隣接したマスに移動するしか方法はない。
白クイーンを退治
✕で示したマスはクイーンを取れるマス。もしキング前のマスe3に逃げると、黒番は次手ナイトc2でフォークできる。
また、フォークを防ぐには、クイーンはc2に隣接したマスに移動するしか方法はない。
ビギナーには好まれる
実戦でも、レートが低いビギナーにはナポレオン・オープニングを指すプレイヤーが多い。とくに、早指しのゲームでよく遭遇する。
ゲーム開始早々にクイーンをウロチョロさせるのは、チェスのセオリーに反している。チェスというゲームは、クイーンを暴れさせて勝負が付くような単純なゲームではない。
クイーンをf3に配置することを批判するつもりはないが、狙いが安直なチェックメイトだとしたら「凡庸」と言わざるを得ない。
ナポレオン・オープニングは、オープニングのなかでも非正統的である。Stockfishなどのチェスエンジンの分析でも、クイーンを前線に配置した時点で相手側が優勢となる。
つまりオープニングとしては、残念ながら優れていないということになる。このオープニングにこだわるうちは、上達は見込めないであろう。
ナポレオンの棋譜を再現
ナポレオンはチェスを好んでいたようで、19世紀初頭から幾つかの棋譜を残している。
ナポレオン・オープニングを指している対局(対The Turk)もあるが、ナポレオンは負けている。
若いころはクイーンf3を指すことを好んでいたようであるが、後年の棋譜には見られない。
Claire Rémusatとの対局
対局相手のClaire Rémusatは、ナポレオンの妻(皇后ジョセフィーヌ)の侍女。
憶測に過ぎないが、この棋譜はナポレオンが考え付いたトラップのようにも見える。
白番(ナポレオン)の大胆な捨て駒によって、黒番のキングがどんどん前線に引っ張り出されていくという面白い展開となっている。
The Turk(Johann Allgaier)との対局
対局相手のThe Turkとは、チェスをプレイする機械仕掛けの人形。ナポレオンとの対局では、オーストリアのチェスの名手Johann Allgaierが操作した。
Henri Gatien Bertrandとの対局
対局相手のHenri Gatien Bertrandは、フランス革命当時の将軍。
この頃の棋譜には、クイーンf3が見られなくなる。