Best by test: 1.e4
「やってみて最良だったのは、1手目 e4」とは、世界チャンピオンBobby Fischerの言葉。
答えはすでに出ているのかもしれない。
チェスの初手とオープニングは直接的に関係しており、最初の1手、2手のそれだけで基本形になるオープニングも多い。
チェスを始めて、まず覚えたいオープニングは次の4つ。上から順に覚えていけばよい。
自分が初手e4 | Italian Game Ruy Lopez |
相手が初手e4 | Sicilian Defence |
相手が初手d4 | King’s Indian Defence |
チェスの初手とは
1手目 | オープニング(例) | |
---|---|---|
白(初手) | 黒 | |
e4 King’s Pawn Game |
e5 Open Game |
Italian Game Ruy Lopez Center Game |
e5以外 Semi- Open Game |
Sicilian Defence French Defence Caro-Kann Defence |
|
d4 Queen’s Pawn Game |
d5 Closed Game |
Queen’s Gambit London System Colle System |
d5以外 Semi- Closed Game |
Indian Defence(群) Dutch Defence English Defence |
|
その他 Flank Opening |
English Opening Réti Opening Larsen’s Opening |
チェスの手数は、先手(白)と後手(黒)の指し手をセットで1手として数える。すなわちチェスの初手とは、1手目の先手白番の指し手のことをいう。(英語ではfirst moveという。)
オープニングは、1手目の指し手によって上のように分類されている。覚える必要はないが、知っておくと初手の選択基準になる。
初手とオープニングの関係性
チェスの初手は20通り(ポーン16通りとナイト4通り)ある。
しかし、実際にゲームで使われているオープニングの多くは、
- e4 : King’s pawn Game
- d4 : Queen’s pawn Game
に属するオープニングである。
それ以外のオープニングはFlank Openingと呼ばれるマイナーなオープニングであり、ほとんど使われていない。(※ c4 のEnglish Openingは比較的よく使われている。)
チェスの長い歴史とその分析から求まった初手の最善手は、e4 か d4 だったということである。それで、よく使われるオープニングの初手は e4 または d4 という実体になっている。
Open Gameとは
Open Game(オープンゲーム)とは、初手の白 e4 に続いて黒 e5 と指して始まるゲームのことである。
初手で白ポーン e4 に続いて黒ポーン e5 と指すと、そのポーンは駒交換されて盤上から取り除かれることが多い。そして、eファイル(および盤面)が開かれるため、その状態をOpen(オープン)という。
対して、Closed Game(クローズドゲーム)とは、初手で白ポーン d4 に続いて黒ポーン d5 と指して始まるゲームのことをいう。これらのポーンはクイーンに守られていて駒交換されにくく、残ったままのポーンによってdファイル(および盤面)は閉ざされるため、その状態をClosed(クローズ)という。
最初の一手は e4? d4?
- どちらでも良いが、チェスを始めてしばらくは e4 で良い。
- e4 には、Italian GameやRuy Lopezといった基礎的なオープニングがある。
- 自分(白)が e4 だけを指せば、相手(黒)が指してくる手も自然と絞られてくる。
自分が先手(白)の場合に、「最初の一手は e4」と決めていれば、相手(黒)が指してくる手も絞られる。つまり、覚えることを少なくできるので楽になる。
まずは、初手 e4 のオープニングから身に付けていくと良い。
初めの一手は e4 で良い
このグラフは、Chess.comでプレイされたゲーム(その数380万以上)で指された初手とその割合を示したものである。
自分が先手(白)の場合の初手を e4 に限ると、次手の黒が指す手も自ずと限られてくることが分かる。これに当てはまるオープニングを見てみよう。
手順(1手目) | オープニング |
---|---|
1.e4 c5 | Sicilian Defence |
1.e4 e5 | Italian game Ruy Lopez Center Game Petrov’s Defence |
1.e4 e6 | French Defence |
1.e4 c6 | Caro-Kann Defence |
1.e4 g6 | Modern Defence |
1.e4 d5 | Scandinavian Defence |
1.e4 Nf6 | Alekhine’s Defence |
初手 e4 に続けて相手(黒)の指してくる手は、だいたいDefenceである。これらはすぐに覚える必要はなく、とりあえず知っておけばよい。実戦のなかで自然と応酬が身についていく。
注目したいのは1.e4 e5 で、オフェンスのオープニングがある。自分が先手(白=オフェンス)のときに使うために、1手目 1.e4 e5 で始まるオフェンスのオープニングを覚えるのがよい。
おすすめが2つある。この2つのオープニングは手順がほぼ同じで、3手目のビショップの動きが違うだけ。一緒に覚えることができる。
手順 (1~3手目) |
オープニング |
---|---|
1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4 |
Itarian Game |
1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 |
Ruy Lopez |
相手の初めの一手は分からない
相手が先手(白)の場合は、初手で何を指してくるのか予想できない。e4 かもしれないし、d4 かもしれない。それ以外かもしれない。
グラフを参考にして対策を考えてみたい。
e4 と d4 から始まったゲームは80%に及ぶ。ということは、相手が e4 か d4 を指してくる可能性はかなり高い。そこで、思い切って e4 のディフェンスをひとつ、d4 のディフェンスをひとつ、計2つのディフェンスで対応していくことにする。
初手 e4 に対して一番多い指し手は c5 である。また、初手 d4 に対して一番多い指し手は Nf6 である。これに当てはまるディフェンスを覚えればよいということになる。
手順(1手目) | オープニング |
---|---|
1.e4 c5 | Sicilian Defence |
1.d4 Nf6 | Indian Defence(群)から King’s Indian Defence |
チェスの一手目の定跡(自分が白の場合のオープニング)
手順 (1~3手目) |
オープニング |
---|---|
1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4 |
Itarian Game |
1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 |
Ruy Lopez |
この2つのオープニングは手順がほぼ同じで、3手目のビショップの動きが違うだけである。一緒に覚えてしまえばいい。
2つとも、もっとも早くキャスリングできる定跡であり、ビギナーに最適なオープニングである。もちろん、トッププレイヤーだって常用する。
- ポーンをセンターに配置する。
- ナイトとビショップを展開する。
- キャスリングする。
という、チェスの基本が詰まっている。
e4 e5 : Italian Game
Italian Gameは一番最初に覚えるオープニングに最適である。目的が明確で、駒をいったん安全なマスに配置できる。ビショップは相手キングの急所f7のマスを狙う。
3手目の黒番に分岐点があり、Giuoco Piano、もしくはTwo Knights Defenceのどちらかに(95%以上の確率で)進展する。ゲームの方向性が定まるため、自分なりの戦い方を作りやすい。
e4 e5 : Ruy Lopez
Ruy Lopezは、早々にビショップを飛ばして相手の黒ナイトを攻撃するオープニングである。元来の目的は黒ナイトを取って相手のポーン構造を破壊することにあるが、現在は黒ナイトを取らないのが主流になっている。
このオープニングは、トッププレイヤーが(最善手で)プレイすると勝率が高いことが知られている。それはアマチュアにできることではないが、繰り返しプレイして使いこなせるようになれば強い武器になる。
チェスのディフェンス(自分が黒の場合のオープニング)
手順(1手目) | オープニング |
---|---|
1.e4 c5 | Sicilian Defence |
1.d4 Nf6 | Indian Defence(群)から King’s Indian Defence |
チェスのディフェンスとは、先手(白)に対する黒番の応戦のことをいう。これらのオープニングにはDefenceという名称が付いている。
誤解の無いように書いておくが、ディフェンスもオープニングである。むしろ、ゲームの方向性を明確にするディフェンスのオープニングは多い。
ディフェンスは黒側が選択するオープニングであるが、そのゲームの進行を白側も知っておかなければ対応できなくなる。つまり、そのゲーム自体が「○○ディフェンス」というゲームになることを理解しておかなければならない。
e4 c5 : Sicilian Defence
Sicilian Defenceは、e4 から始まるゲームの45%という高い割合で選択されているオープニングである。先手(白)有利のチェスにおいて、黒の勝率を向上させた正体はSicilian Defenceである。
キャスリングまでの手順が長くて覚えにくいが、すべての手順を頭に入れなくてもよい。ポイントは2つ。始めに突いた黒ポーン c5 で 白ポーン d4 を必ず取ること。白が展開したナイトと同じ側の黒ナイトを展開すること。
d4 Nf6 : King’s Indian Defence
1手目 1.d4 Nf6 で始まるオープニングはIndian Defenceに分類される。いくつかある中で、King’s Indian Defenceを薦めたい。キャスリングするまでの手順を覚えやすい。
2手目で基本形となるが、3手目のフィアンケットまでを一連の動きとして覚えたい。相手の駒展開に関わらずセットアップできるこのディフェンスは、流用されて白用のオフェンスKing’s Indian Attackにもなったほど優れている。
オープニングの覚え方
- 自分が指すオープニングを決めて繰り返して覚える。
- 相手によく指されるオープニングを知っていく。
実戦で駒を動かして覚える
駒の動きを暗記しようとするよりも、手を動かすほうが頭に入りやすい。実戦で手を動かして、体で覚えてしまう感じがよい。
自分が使いやすいオープニングを決めたら、それをひたすら繰り返すのが習得の早道である。
オープニングの覚える順番
自分が初手e4 | Italian Game Ruy Lopez |
相手が初手e4 | Sicilian Defence |
相手が初手d4 | King’s Indian Defence |
自分が指すオープニングをこの4つに絞って、上から順に覚えていく。
相手によく指されるオープニングは実戦の中で知っていけばよい。
チェスのオープニングはバリエーション(変化形)まで含めると相当な数になる。すべてを知る必要はない。オープニングにこだわるよりも、作戦力を養うほうに時間を使いたい。そのほうが上達は早い。
オープニングを覚えることは知識にはなるが、即戦力にはならない。自分が定跡を知っていても、相手が定跡を知らないとすぐに定跡から外れてしまうし、そうなると知識では対応できなくなるからである。
まずは e4 のオープニングをひたすら繰り返すことを薦める。e4 で十分な経験を積んでから、そのあとで d4 に着手するとよい。
(おまけ)d4 のオープニング
自分が先手(白)で d4 を指すなら、避けて通れないのがQueen’s Gambitである。Chess.comのゲーム中、1手目 1.d4 d5 のうち70%がQueen’s Gambitに流れている。
この名前、海外ドラマが好きな方なら耳にしたことがあるかもしれない。Netflixで公開されて世界的に人気を博したチェスのドラマ『クイーンズ・ギャンビット』のタイトルにもなった。(私も観ましたが、とても面白いです。)
d4 d5 : Queen’s Gambit
Queen’s Gambitは古くからあるオープニングで、1500年頃の文献に登場する。その定跡は現在でもまったく色褪せず、トッププレイヤーも頻繁に使用する。
ギャンビットの白ポーン c4 を取らないDeclined(QGD)が主流で、その分岐(バリエーション)は複雑である。初手 d4 に取り掛かろうとする気鋭に十分に応えてくれるオープニングである。