- オープニング一覧
- オープニングと定跡(ABC順)
- Alekhine’s Defence
- Benoni Defence
- Bird’s Opening
- Bishop’s Opening
- Bogo-Indian Defence
- Budapest Gambit
- Caro-kann Defence
- Catalan Opening
- Center Game
- Damiano Defence
- Dutch Defence
- English Defence
- English Opening
- Four Knights Game
- French Defence
- Grünfeld Defence
- Italian Game
- King’s Gambit
- King’s Indian Defence
- Larsen’s Opening
- London System
- Modern Defence
- Nimzo-Indian Defence
- Old Indian Defence
- Petrov’s Defence
- Philidor Defence
- Pirc Defence
- Ponziani Opening
- Queen’s Gambit
- Queen’s Indian Defence
- Réti Opening
- Ruy Lopez
- Scandinavian Defence
- Scotch Game
- Sicilian Defence
- Trompowsky Attack
- Vienna Game
- オープニングの種類・分類
オープニング一覧
白 | 黒 | オープニング |
---|---|---|
e4 | c5 | Sicilian Defence🔰 └Smith-Morra Gambit |
e5 | Italian Game🔰 ├Giuoco Piano🔰 └Two Knights Defence Ruy Lopez Bishop’s Opening Center Game Scotch Game Vienna Game Four Knights Game Philidor Defence Petrov’s Defence Ponziani Opening Damiano Defence King’s Gambit |
|
e6 | French Defence | |
c6 | Caro-Kann Defence | |
d6 | Pirc Defence | |
g6 | Modern Defence | |
d5 | Scandinavian Defence | |
Nf6 | Alekhine’s Defence | |
d4 | Nf6 | King’s Indian Defence🔰 Nimzo-Indian Defence Queen’s Indian Defence Bogo-Indian Defence Catalan Opening Grünfeld Defence Budapest Gambit |
d5 | Queen’s Gambit └Slav Defence London System |
|
e6 | English Defence | |
f5 | Dutch Defence | |
g6 | Modern Defence | |
c5 | Benoni Defence | |
Other | English Opening Réti Opening └King’s Indian Attack Bird’s Opening Larsen’s Opening Trompowsky Attack |
※🔰は真っ先に覚えたいオープニング
オープニングと定跡(ABC順)
Alekhine’s Defence
- ECO:B02(B04 Modern Variation)
- 1921年、Alexander Alekhine(露-仏/世界チャンピオン)がブダペストのチェス世界大会のゲームにて採用した。
- 名称は考案者のAlekhineの名にちなむ。
Alekhine’s Defenceは、黒ナイトが盤上で動きながら白ポーンを誘い出し、白のポーン構造の弱点を突いて攻撃する狙いがある。定跡のほとんどは4手目の白番で分岐するため、黒(ディフェンス側)はそれぞれの応酬を知っておきたい。白にはFour Pawns Attackという攻撃的なオプションがある。
Benoni Defence
- ECO:A60(A43 Old Benoni)
- 1825年、Aaron Reinganum(独/作家)が分析して自著に残した。現在の定跡は1927年にFrank Marshall(米国チャンピオン)が考案しN.Y.トーナメントで公開した。
- 名称は聖書の記述にある人名「Ben-Oni」より。
Benoni DefenceにはOld Benoniと呼ばれる元来の定跡があり、これはQueen’s Gambitへの対策であった。現在のBenoni Defence(Modern Benoni)はIndian Defenceを経由して元来のポーン(c5)を突くように改造されたものである。3手目で黒ポーン(b5)を突くBenko Gambitがもっとも選択されているが、どちらにしても白が優勢になる。
Bird’s Opening
- ECO:A02
- 1855年からHenry Bird(英/著名プレイヤー・作家)がこの定跡を愛用していた。
- 名称はBirdの名にちなみ、英国の新聞社が呼称して広く定着した。
Bird’s Openingは、センター(e5)のマスを支配して攻撃の機会を得ることを目的にする。黒番がポーン(e5)を突いてきた場合はFrom’s Gambitに進展する。IM(国際マスター)Timothy Taylorが提案するキングサイドキャスリングを見据えたラインは手堅い。しかし、変化が多様で難易度が高く、ビギナー向きではない。
Bishop’s Opening
- ECO:C23
- 1500年頃の文献に登場する。Luis Ramírez de LucenaとRuy Lópezによって研究されたと伝わっている。
- 名称は、開始早々のBishopの展開に由来する。
Bishop’s Openingは、2手目の黒ナイト(Nf6)がメインラインとなっており、その後ほとんどがGiuoco PianissimoかVienna Gameのどちらかに転置する。白には3手目ポーン(d4)でギャンビットを仕掛ける手筋があり、センターでバチバチの戦いが繰り広げられる展開になるので好戦的なゲームを好む人に向いている。Scholar’s Mateの手筋はビギナーが頻繁に試してくるため、自分が黒番の場合には意識しておく必要がある。
Bogo-Indian Defence
- ECO:E11
- 1920年代、Efim Bogoljubow(露-独/グランドマスター)によって考案されて以来、多くのトッププレイヤーがプレイに採用した。
- 名称は考案者のBodoljubowの名にちなむ。
Bogo-Indian Defenceは、3手目の黒ビショップ(Bb4)で敵陣を攻撃し、さらに黒クイーンで護衛する動きを取る。このあと黒ビショップは反撃に遭うため、切り捨てるか、後退させるかで展開が変わる。なお、3手目で黒ポーン(d5)からQueen’s Gambit Declined(QGD)、黒ポーン(b6)からQueen’s Indian Defenceに転置するプレイが多いため、これらのオープニングの知識も必要となる。
Budapest Gambit
- ECO:A51(A52 Adler Variation)
- 1896年、ブダペストで行われたゲームでAdlerによる採用が最初のものとして記録されている。
- 名称は、そのゲームが行われたハンガリーの首都ブダペストにちなむ。
Budapest Gambitは黒番がディフェンシブに仕掛けるギャンビットであるため、Budapest Defenceとも呼ばれる。1918年のトーナメントで採用したプレイヤーが圧勝したことで当時この定跡の人気が高まったが、現在はほとんどプレイされていない。Adler VariationにはBudapest rookの攻撃的オプションがあり、これは作戦の参考になる。
Caro-kann Defence
- ECO:B10
- 1885年、ドイツチェス大会でMarcus Kann(オーストリア/プレイヤー)が採用して公開。
- 名称はKannと共に定跡を分析したHoratio Caro(英/プレイヤー)の名にちなむ。
Caro-kann Defenceは、強固なポーン構造を形成しつつクイーンサイドのビショップを展開して布陣することを目的にする。黒は駒展開がやや遅れがちになるが手堅いゲーム進行を期待できる。3手目で黒ポーン(d5)を白番が取るとExchange Variationに進展する。ナイトの展開の仕方が興味深い。
Catalan Opening
- ECO:E00
- 1929年、バルセロナのチェストーナメント主催者に新しい定跡を依頼されたSavielly Tartakowerが考案した。
- 名称はスペイン カタルーニャ地方に由来する。
Catalan Openingは、白がキングサイドにフィアンケットして、クイーンサイドではギャンビットを仕掛ける攻撃的な布陣を目的にする。これにより黒のクイーンサイドに明らかな圧力がかかる。黒番は白ポーン(c4)を取って盤面を開いて戦うか、取らずに閉じたまま戦うか判断を迫られる。近年ではMagnus Carlsen(ノルウェー/グランドマスター)がメインの定跡としてプレイしている。
Center Game
- ECO:C21
- 初手は不明。チェスの歴史とともにある古典的アプローチだと考えられる。
Center Gameは、白番に有利な点が無いため敢えてこれを推奨しない。それでも実戦では1手目(1.e4 e5)のあと白ポーン(d4)を突いてくるプレイヤーが多いため、当サイトでは黒(ディフェンス)の視点で扱う。黒番は、前線に繰り出した白クイーンの動きに注意しながら淡々と駒展開すれば優勢を保てる。3手目に白ポーン(c3)ならDanish Gambitに進展する。
Damiano Defence
- ECO:C40
- 1500年頃、Pedro Damiano(伊/薬剤師・プレイヤー)の著作物に記述がある。
- 名称はDamianoの名にちなむ。
Damiano Defenceは、黒のディフェンスとして成り立っておらず推奨できない。Damiano自身も批判しているほど。2手目の黒ポーン(f6)によってキングが露わになり、ナイト(Nf6)の進出を妨げてしまう。3手目の白ナイト(e5)で明らかに白優勢となる。相手がビギナーの場合にハンディキャップとして使うのにはちょうど良い。
Dutch Defence
- ECO:A80(A95 Stonewall Dutch)
- 1789年、Elias Stein(オランダ/プレイヤー)「初手d4に対する最良の応酬」とする考察を自著に残した。
- 名称はSteinの出身地オランダにちなむ。
Dutch Defenceは、黒がセンター(e4)のマスを支配して白キングサイドへの攻撃機会を得ることを目的にする。ただ、黒もキングサイドが脆弱な構造になる。この脆弱性を補うStonewall Dutchという堅実な布陣オプションがあり、ポーン構造が作戦の参考になる。
English Defence
- ECO:A40
- 1940年代、Philip Norman Wallis(英/プレイヤー)が分析し、英国のトッププレイヤーに採用されて広まった。
- 名称はWallisの出身地イギリスにちなむ。
English Defenceは、白が形成するポーンセンターに対して黒ビショップや黒クイーンで崩していく攻撃を目的にする。e4マスの攻防に備えて黒はフィアンケットする。マイナーピースを次々と交換する急戦型の展開になる。オープンな盤面を得意とするプレイヤーに向いている。6手目で白クイーンにチェックされるケースが多いが、これは白の手損になる。
English Opening
- ECO:A10(A20 Reversed Sicilian, A32 Symmetrical Defence)
- 1843年、Howard Staunton(英/世界的プレイヤー・チェス著述家)が提唱し試合で採用した。
- 名称はStauntonの出身地イギリスにちなむ。
English Openingは、中央のポーンではなくクイーンサイドのポーン(c4)を突いてd5マスの支配権をめぐる攻防を目的にする。白初手c4に対する黒の応答は多岐にわたるため、それぞれの展開(バリエーション)の分析が必要である。もっとも印象的なのはReversed Sicilianのラインで、白初手c4に黒ポーン(e5)と応答してシシリアンディフェンスの立場を逆にした盤面となる。
Four Knights Game
- ECO:C47(C46 Three Knights Game)
- 名称は、盤面に4つのナイトが出揃う状態に由来する。
Four Knights Gameは、多くのチェス指南書どおり「はじめにポーンを展開し、次にナイトを展開する」というアドバイスを守るビギナーがよく指す傾向がある。白黒対称の盤面になるため拮抗してドローになりやすいと考えられていたが、近年は対称性を破る手筋が分析され、トッププレイヤーも試合で採用することがある。4つ目のナイトを展開しなければThree Knights Gameとなるが、現在はほとんどプレイされていない。
French Defence
- ECO:C00
- 名称は、1834年にパリ・ロンドン間で行われた通信チェスの試合にちなんで付けられた。
French Defenceは、白黒のポーンが互いに行き交い盤中央に双方のポーンチェーンが出現する。白ポーンがe5に進むと、黒番は窮屈な布陣を強いられるがキングサイドのビショップを先に前線に出しておくことで戦いやすくなる。3手目で白が黒ポーン(d5)を取った場合はキングの居るeファイルが開くため急戦になる傾向がある。
Grünfeld Defence
- ECO:D70(D85 Exchange Variation)
- 1922年、Ernst Grünfeld(オーストリア/グランドマスター)がトーナメントで採用して人気が高まり広まった。
- 名称はGrünfeldの名にちなむ。
Grünfeld Defenceは、白にポーンセンターを許すかわりに、黒はフィアンケットとクイーンサイドの開かれたスペースから白のクイーンサイドを攻撃していく。4手目の白番が分岐点となっており、白ポーン(d5)がメインラインとなっている。もし白ポーンが交換を避けた場合でも、白ポーン(e4)でポーンセンターを維持するが、黒にも駒展開しやすいスペースが確保されており戦いやすい。
Italian Game
- ECO:C50
- 1620年、Gioachino Greco(伊/プレイヤー・チェス著述家)が研究した。
- 名称は、Grecoの功績を称えて彼の出身地イタリアにちなんだものと考えられる。
Italian Gameは、1手目(1.e4 e5)からの基本的な展開で、もっとも早くキャスリングできる定跡である。ビギナーに最適なオープニングであり、もちろん現在のグランドマスターたちもGiuoco Pianoのラインでプレイする。ビショップ Bc4 は相手キングの急所 f7 を照準しており、ナイト Nf7 で黒のクイーンとルークをフォークする攻撃は常套手段である。白番でも黒番でも意識しておかなければならない。
Giuoco Piano
- ECO:C50
- 16世紀初頭、Pedro Damiao(ポルトガル/薬剤師・チェス研究家)が分析し自著に残した。
- 名称は、イタリア語で「静かなゲーム」。
Giuoco Pianoは、その名のとおり白黒が互いに攻撃のタイミングを見合う展開になる。実際、双方が駒交換を避けたままゲームが進み、身動きできないほど拮抗した状態になることがある。クローズドゲームが得意なプレイヤーに向いている。現在は、4~5手目で白ポーン(d3)とするGiuoco Pianissimoがトッププレイヤーたちに好まれている。白番にはEvans Gambitの攻撃オプションがあり、静寂をやぶることもできる。
Two Knights Defence
- ECO:C55
- 16世紀後半、Giulio Cesare Polerio(伊/プレイヤー、チェス研究家)が残した記録が初出。
Two Knights Defenceは、Italian Gameの黒の応答として攻撃性を備えた防御を目的にする。もし4手目で白番がナイト(Ng5)を進めてきた場合は、黒ポーン(d5)の一手となる。続けて白番にはFride Liver Attackという強烈な攻撃オプションがあり、実行されると黒が劣勢に立たされるので対策を知っておく必要がある。
King’s Gambit
- ECO:C30
- 1497年、Luis Ramírez de Lucenaの著書に登場したのが初出の記録として伝わっている。
- 名称は、キングサイドで仕掛けるギャンビットに由来。
King’s Gambitは、白がキングサイドの守りを犠牲にして仕掛ける攻撃的なギャンビットである。fポーンを突くことによりキングサイドに大穴が開くため、守備もキャスリングも難しい状況になる。黒優勢になることを多くのトッププレイヤーに指摘されており、ビギナーが敢えてキングス・ギャンビットを選択する理由はない。Bobby Fischer(世界チャンピオン)が「King’s Gambitは破綻している」と言った。
King’s Indian Defence
- ECO:E60
- 1884年、Indian Defenceがインド人プレイヤーに使用されたことが初出の記録。
- 名称は、20世紀半ばにHans Kmoch(オーストリア-米/国際マスター)によって分類され名付けられた。
King’s Indian Defence(KID)は黒番のフィアンケット型ディフェンスである。白のポーンセンターを許しつつ、それらと干渉することなく攻撃に備えた布陣を目的とする。そのあと黒ポーン(b5)でクイーンサイド、または黒ポーン(f5)でキングサイドを攻撃していく。初手白ポーン(d4)への応酬手としてもっとも人気があり、現在のトッププレイヤーも使用する。白にはFour Pawns Attackの攻撃オプションがあり、これは作戦の参考になる。
Larsen’s Opening
- ECO:A01
- 1920年代にAron Nimzowitsch(デンマーク/世界的プレイヤー・チェス著述家)が、1968年からBent Larsen(デンマーク/グランドマスター)が試合で採用した。
- Nimzowitsch-Larsen Attackとも呼ばれる。名称はNimzowitschとLarsenの名にちなむ。
Larsen’s Openingは、クイーンサイドのフィアンケットでセンターと黒のキングサイドへの圧力を目的とする。低い陣形を取りつつ、黒の出方を伺うような戦い方になる。初手白b3に対する黒の応答は多様であり、他のフィアンケット系オープニングに転置される。そのため、このオープニングを使用する場合は他のオープニングについて広い知識が必要となる。
London System
- ECO:D02、A46、A48
- 1882年からJames Mason(米/著名プレイヤー・作家)がトーナメントで度々採用した。
- 名称は、1922年のロンドントーナメントで数人のプレイヤーにより7度も採用された記録に由来する。
London Systemは、システム型オープニングである。相手の駒展開に関わらず、定位置に布陣して戦いに挑む。手順は自由だが、白初手ポーン(d4)のあと白ビショップ(Bf4)を先に展開する。クローズドゲームが得意なプレイヤーに向いている。黒のあらゆるディフェンスに対応できる堅実なオープニングとして定評がある。また、黒番が採用することも可能であり、鏡面対称にセットアップすればよい(Reversed London System)。
Modern Defence
- ECO:B06, A40
- 1960年代、Karl Robatsch(オーストリア/グランドマスター)が分析し普及させた。
- 名称は、ハイパーモダニズムの象徴として呼称されている。
Modern Defenceは、白にポーンセンターを許し、そのセンター奪還を図らずに攻撃することを目的にする。3手目の白番が分岐点となり、ナイト以外にもビショップ(Bc4)やポーン(g3)など展開は多岐にわたる。定跡が通用しない定跡とも言えるため、プレイヤーの作戦力、考察力が多分に試されるオープニングである。
Nimzo-Indian Defence
- ECO:E20(E48:Main line)
- 20世紀初頭、Aron Nimzowitsch(デンマーク/世界的プレイヤー・チェス著述家)が考案。
- 名称はAron Nimzowitschの名にちなむ。
Nimzo-Indian Defenceは、黒ビショップ(Bb4)を皮切りにクイーンサイドのポーンとナイトを次々と攻撃参加させる目的がある。スペースが広く開くため作戦を柔軟に立てられるのも大きなメリットである。ぶつけ合ったポーンを取るか取らないかで局面は大きく変わるため、戦局を読む力が必要となる。インディアンディフェンスの中でも人気が高く、トッププレイヤーにも採用される。
Old Indian Defence
- ECO:A53
Old Indian Defenceは、チェスデータベースを見てもあまりプレイされていないようである。3手目で分岐して、白ナイト(Nc3)なら4手目でKID(King’s Indian Defence)に転置するため、はじめからKIDを選ぶプレイヤーが多い。白ナイト(Nf3)ならフィアンケットするラインが選ばれる。Hypermodernに属するが、攻め方はセンター寄りで古典的である。
Petrov’s Defence
- ECO:C42
- 19世紀中頃、Alexander Petrov(露/プレイヤー・チェス著述家)が分析し普及に努めた。
- 名称はPetrovの名にちなむ。別名Russian gameと。
Petrov’s Defenceの名のとおりディフェンスであるが、黒番に敢えてこれを推奨しない。このゲームは開始早々にクイーン同士が対峙したり、駒交換を慎重に読む状況になりがちで非常に神経質で疲弊する。それでも相手が黒ナイト(Nf6)を指してくるケースに対応するため、当サイトでは白(オフェンス)の視点でRussian Gameとして扱う。トラップが多く潜むため、それらの手筋の知識も必要になる。チェスらしい面白さがあるため、この定跡に熟練するのも良いかもしれない。
Philidor Defence
- ECO:C41
- 1561年、André Danican Philidor(仏/プレイヤー・オペラ作曲家)が自著に記述した。
- 名称はPhilidorの名にちなむ。
Philidor Defenceは、3手目で黒ポーン(f5)でギャンビットして白のポーンセンターを奪還することを目的とする。現在はポーン(exd4)を交換して盤面を開く展開が選ばれている。黒は積極的に攻撃しようとはせず、キャスリングして態勢を整えながら相手の出方を待つ防戦になる。しばらく駒交換が行われないため、早指しチェスでは時間稼ぎできるオープニングとして人気を得ている。トッププレイヤーのゲームでの採用は少ない。
Pirc Defence
- ECO:B07
- 20世紀前半、Vasja Pirc(ユーゴスラビア/グランドマスター)によって分析された。
- 名称はPircの名にちなむ。
Pirc Defenceは、白にポーンセンターを許し、黒はキングサイドフィアンケットとクイーンサイドの両サイドからの攻撃を目的とする。白にはAustrian Attackの攻撃オプションがあり、ポーン3体でセンター支配してゲームをコントロールする。3手目で黒ポーン(e5)を突くと、Philidor Defenceに転置する。
Ponziani Opening
- ECO:C44
- 1500年頃の文献に登場する。1769年、Domenico Lorenzo Ponziani(伊/法学教授・プレイヤー)が分析したことが伝わっている。
- 名称はPonzianiの名にちなむ。
Ponziani Openingは、古くから分析されていたオープニングである。しかし、このオープニングは現在はほとんどプレイされない。3手目の白ポーン(c3)は4手目のポーン(d4)をフォローする目的があるが、ナイトのポジションを奪い、駒の展開が遅れてしまう。黒にはPonziani Counter Gambitという反撃のオプションがあるので、相手がこのオープニングを指してきた場合に試したい。
Queen’s Gambit
- ECO:D30(D20 Queen’s Gambit Accepted)
- 1620年、Gioachino Greco(伊/プレイヤー・チェス著述家)が研究した。
- 名称は、クイーンサイドで仕掛けるギャンビットに由来。
Queen’s Gambitは、白ポーン(c4)を犠牲にして序盤の優位性を得ようとする目的がある。しかし、黒が白ポーンを取らないDeclinedが主流になっている。古くからある定跡で深くまで分析が進んでおり、それぞれの分岐についての知識が必要となる。ギャンビットを黒が受け入れて白ポーン(c4)を取るとQueen’s Gambit Accepted(QGA)に分岐するので、その対策も覚えておく必要がある。d4オープニングでもっとも推奨したいオープニングである。Netflixで人気を博したドラマ『クイーンズギャンビット』により知名度が高まった。
Slav Defence
- ECO:D10
- 1590年、初出の記録あり。
- 名称は、この定跡を研究したスラブ系プレイヤーたちの功績にちなむ。
Slav Defenceは、Queen’s Gambitに対する黒の応答でもっとも選択されるディフェンスである。黒はポーン構造を維持したままクイーンサイドのビショップを攻撃に参加させる目的がある。黒番にQueen’s Gambitを指された場合の応酬手として覚えておく必要がある。
Queen’s Indian Defence
- ECO:E12
- 名称は、クイーンサイドで行うIndian Defenceに由来する。
Queen’s Indian Defenceは、白ポーンの進出に対して低く布陣し、堅実なオープニングとして定評がある。クイーンサイドのビショップをフィアンケットして、センターに進む黒ポーンを後衛する目的がある。現在のトッププレイヤーに人気なのは、5手目で白クイーン(Qc2)として攻撃態勢を取る手であり、今後、黒の脅威になり得る。
Réti Opening
- ECO:A04(A09 Advance Variation)
- Richard Réti(オーストリア-チェコ/プレイヤー・チェス著述家)が研究し、1924年のN.Y.トーナメントで採用した。
- 名称はRétiにちなむ。
Réti Openingは、センターの占領にこだわらずクイーンサイドからの攻撃を目的にする。白は初手(Nf3)で黒の応手を見て柔軟に対応でき、且つ黒のポーンセンターを牽制する。この初手(1.Nf3)をもってRéti Openingと呼ぶこともある。白はポーン(c4)を軸にクイーンサイドで攻撃を展開する。2手目で黒番の指し手によって分岐し、3手目の白ポーン(d4)でQueen’s Gambitのラインに転置するケースもある。プレイヤーの知識と判断力が問われるオープニングである。
King’s Indian Attack
- ECO:A07
- 1950年代、King’s Indian Defenceが白用(オフェンス)に流用されてトッププレイヤーに人気を博した。
- 名称はKing’s Indian Defenceに倣ったもの。
King’s Indian Attack(KIA)は、白番のシステム型オープニングである。黒の駒展開に関わらず、定位置に布陣して戦いに挑む。手順は自由で、白初手はナイト(Nf3)でもポーン(e4)でもよい。クローズドゲームが得意なプレイヤーに向いている。もっとも頻繁に発生するのは対French Defenceで、対Sicilian Defenceでも同様に進展する。
Ruy Lopez
- ECO:C60
- 1561年、Ruy López(スペイン/司祭・チェス著述家)が研究し著書に残した。
- 名称はRuy Lópezにちなむ。別名Spanish Game。
Ruy Lopezは、1手目(1.e4 e5)で始まるゲームで、もっとも早くキャスリングできる定跡の一つである。4手目(4.Bxc6)で白ビショップが黒ナイトを捕殺して黒のポーン構造を破壊することを目的とする。しかし、現在はMorphy Defenceで白ビショップを後退させるClosed Defenceが主流である。この定跡の分析はかなり深く進んでおり、分岐のそれぞれに名称が付けられているほど。序盤は白優勢で進展していくことが分かっているため、トッププレイヤーにもっとも選択されている。上手なプレイヤーが使うオープニングという印象がある。
Scandinavian Defence
- ECO:B01
- 1475年のゲーム記録が初出。最古のオープニング。19世紀後半にスカンジナビアのプレイヤーによって分析された。
- 名称はスカンジナビア地域に由来する。別名Center Counter Game。
Scandinavian Defenceは、白のポーンセンターを妨害して、強固なポーン構造を築くことが目的となる。しかし、黒番には推奨しない。前線に出したクイーンの活用が難しく、駒展開も遅れ、白が優勢になる。そのため、当サイトでは白(オフェンス)の視点でCenter Counter Gameとして扱う。トッププレイヤーのほとんどが黒ポーン(d5)を取る選択をする。
Scotch Game
- ECO:C44
- 1750年、Ercole del Rio(伊/弁護士・チェス著述家)が自著に記した。
- 名称は、1824年にエディンバラ~ロンドン間で行われた通信チェスにちなむ。
Scotch Gameはポーンの配置がCenter Gameと同じだが、ナイトが出ているため展開はまるで違う。目的は、白がセンターの黒ポーン(e5)と交換してセンター支配を強めることにある。黒の手として望ましいのは白ポーン(d4)を取ることであるが、もし黒ポーン(d6)なら白優勢となる。
Sicilian Defence
- ECO:B20
- 1594年、Giulio Polerioが分析し自著に残した。
- 名称は、1813年にJacob Sarratt(英/プレイヤー・著述家)が文献を英訳して標準化した。
Sicilian Defenceは、e4に対するディフェンスでもっとも選択されているディフェンスで、チェスデータベースにおいて25%を占める。有利な先手白に、黒も対等に主導権を主張できるオープニングである。交戦を遅らせて、クイーンサイドの駒展開して攻撃のためのスペースを確保できる。先手白e4への最適解であると言っても過言ではない。もし、自分が白であっても黒番にポーン(c5)を突かれた時点でシシリアンとなるため、このオープニングを必ず身に付ける必要がある。
Smith-Morra Gambit
- ECO:B20
- 1950年代、Ken Smith(米/FIDEマスター)が分析し自著に記述した。
- 名称はSmithの名にちなむ。
Smith-Morra Gambitは、Sicilian Defenceに対する白の攻撃的な応酬手である。ポーンを2つ犠牲にしてクイーンサイドを開き、ビショップ(c4)とルーク(c,dファイル)の攻撃ラインを敵陣に通す目的がある。黒がギャンビットに応じない場合は、黒ポーン(g6)を開けてフィアンケットでセンターを攻撃する態勢になることが多い。
Trompowsky Attack
- ECO:A45(A46 Torre Attack)
- 1930年代、Octávio Trompowsky(ブラジル/プレイヤー)が試合で採用し広まった。
- 名称はTrompowskyの名にちなむ。
Trompowsky Attackは、Indian Defence(1.d4 Nf6)に対する飛び道具のように、2手目でビショップを飛ばす豪快な動きで相手に心理的な動揺さえ与える。古典的ではなく、Hypermodernでもない斬新さがあり、自由さがある。メインラインが深くないため、考察を楽しみたいプレイヤーに向いている。類似するオープニングにTorre Attackがあるので、合わせて覚えておきたい。
Vienna Game
Vienna Gameは、現在Four Knights Gameに転置するラインがもっとも多く選択されている。しかし、もともとは白が強くセンター支配を主張して白ポーン(f4)を突くVienna Gambitを実行する目的がある。3手目で黒がポーン(d5)としなければ白優勢となる。このオープニングを使うならギャンビットを選択したい。
オープニングの種類・分類
チェスのオープニング(名称が付けられているもの)の数は『オックスフォード チェス コンパニオン』によると1,327にのぼる。そのなかで実際のゲームに有用性があるものは限られる。
このページで扱ったオープニングは、ECOに収録されたものからピックアップし、その分類に準じている。また私自身が実際のチェスゲームで経験して「出現頻度が高い」と判断したオープニングに絞らせていただいた。
ECO
ECO(『Encyclopaedia of Chess Openings』)は、セルビア ベオグラードの出版社Chess Informantによって出版されているチェスのオープニング辞典である。
編纂にはグランドマスターが携わり、チェスデータベースに記録された膨大なゲームの手順を分析し、それらをオープニングとして分類したかたちで収録している。オープニングはコードが割り振られて体系化されており、そのコードは一般的に「ECO」と呼ばれる。
全5巻(A~E巻)に収録されるオープニングと分類は以下のとおりである。
Volume A: Flank openings
- A00:other than 1.e4, 1.d4, 1.c4(–Irreguler Openings)
- A01:1.b3(Larsen’s Opening)
- A02-A03:1.f4(Bird’s Opening)
- A04-A09:1.Nf3(Réti Opening, King’s Indian Attack)
- A10-A39:1.c4(English Opening)
- A40-A44:1.d4 without 1…d5, 1…Nf6, 1…f5(–非典型的1.d4)
- A45-A49:1.d4 Nf6 without 2.c4(–非典型的1…Nf6, Trompowsky Attack)
- A50:1.d4 Nf6 2.c4 Without 2…e6, 2…g6(–非典型的Indian System)
- A51-A52:1.d4 Nf6 2.c4 e5(Budapest Gambit)
- A53-A55:1.d4 Nf6 2.c4 d6(Old Indian Defence)
- A56-A79:1.d4 with 1…c5 or 2…c5(Benoni Defense)
- A80-A99:1.d4 f5(Dutch Defence)
Volume B: Semi-Open Games
- B00:1.e4 without 1…c6, 1…c5, 1…e6, 1…e5(–King’s Pawn Opening)
- B01:1.e4 1.d5(Scandinavian Defence)
- B02-B05:1.e4 Nf6 with 2.e5 Nd5 3.d4(Alekhine’s Defence)
- B06:1.e4 g6(Modern Defence)
- B07-B09:1.e4 d6 2.d4 Nf6 3.Nc3 g6(Pirc Defence)
- B10-B19:1.e4 c6(Caro-Kann Defence)
- B20-B99:1.e4 c5(Sicilian Defence, Smith-Morra Gambit)
Volume C: Open Games
- C00-C19:1.e4 e6(French Defence)
- C20:1.e4 e5(–King’s Pawn Game)
- C21-C22:1.e4 e5 2.d4 exd4(Center Game)
- C23-C24:1.e4 e5 2.Bc4(Bishop’s Opening)
- C25-C29:1.e4 e5 2.Nc3(Vienna Game)
- C30-C39:1.e4 e5 2.f4(King’s Gambit)
- C40:1.e4 e5 2.Nf3(–King’s Knight Opening, Damiano Defence)
- C41:1.e4 e5 2.Nf3 d6(Philidor Defence)
- C42-C43:1.e4 e5 2.Nf3 Nf6(Petrov’s Defence)
- C44:1.e4 e5 2.Nf3 Nc6(–King’s Pawn Game, Ponziani Opening)
- C45:1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.d4(Scotch Game)
- C46-C49:1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Nc3(Three Knights Game, Four Knights Game)
- C50-C59:1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4(Italian Game, Giuoco Piano, Two Knights Defence)
- C60-C99:1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5(Ruy Lopez)
Volume D: Closed Games
- D00-D05:1.d4 d5(–Queen’s Pawn Game, London System, Colle System)
- D06-D69:1.d4 d5 2.c4(Queen’s Gambit)
- D70-D99:1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 d5(Grünfeld Defence)
Volume E: Indian Defences
- E00:1.d4 Nf6(–Queen’s Pawn Game)
- E01-09:1.d4 Nf6 2.c4 e6(Calatan Opening)
- E10:1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3(–Queen’s Pawn Game)
- E11:1.d4 Nf6 2.c4 e6(Bogo-Indian Defence)
- E12-E19:1.d4 Nf6 2.c4 e6(Queen’s Indian Defence)
- E20-E59:1.d4 Nf6 2.c4 e6(Nimzo-Indian Defence)
- E60-E99:1.d4 Nf6 2.c4 g6 without 3…d5(King’s Indian Defence)
Göttingen manuscript
Göttingen manuscript(『ゲッティンゲン手稿』)は、近代チェスを扱った最古の書物で、1500年~1505年頃のものとされる。ドイツのゲッティンゲン大学に保管されている。
この手稿には12のオープニングについて記録されている。この頃はオープニングに名称が付いていないため、駒の移動順序が記述された。(その記述も、現在のような記法が確立していなかったため、複雑な方法で示されていた。)
記録されたオープニングは以下のとおりである。
- 1.e4 e5 2.Nf3 f6(Damiano Defence)
- 1.e4 e5 2.Nf3 d6(Philidor Defence)
- 1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bc4 Bc5(Giuoco Piano)
- 1.e4 e5 2.Nf3 Nf6(Petrov’s Defence)
- 1.e4 e5 2.Bc4(Bishop’s Opening)
- 1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 Bc5(Ruy López)
- 1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.c3(Ponziani Opening)
- 1.e4 e5 2.Nf3 d6(Philidor Defence for Black)
- 1.d4 d5 2.c4 dxc4(Queen’s Gambit Accepted)
- 1.d4 d5 2.Bf4 Bf5(London System)
- 1.f4(Bird’s Opening)
- 1.c4(English Opening)
Hypermodern Opening
Hypermodern Openingは、20世紀初頭にHypermodernism(理論・学派)が提唱した超現代的スタイルのオープニングである。提唱者はRichard RétiやAron Nimzowitschに代表される。
ゲームにおけるセンターコントロール(盤中央の支配)の優位性はチェスの長い歴史から導かれた一つの答えであったが、Hypermodernismはセンターを間接的にコントロールするゲーム展開でその新しい理論の正当性を実証していった。
Hypermodern Openingの目的は、ポーンによるセンターコントロールを敢えて相手に譲り、そのポーンを標的にしたり、あるいは遠方から攻撃して制圧することにある。
主なオープニングは以下のとおりである。
- Réti Opening
- Larsen’s Opening
- Catalan Opening
- King’s Indian Attack
- King’s Indian Defence
- Queen’s Indian Defence
- Nimzo-Indian Defence
- Nimzowitsch Defence
- Bogo-Indian Defence
- Old Indian Defence
- Alekhine’s Defence
- Modern Defence
- Grünfeld Defence
- Pirc Defence
※English Openingは『ゲッティンゲン手稿』に記述されている古典的な定跡であるが、Hypermodernismに通ずるためHypermodern Openingに属するという考え方も見られる。
System Opening
System Openingは、実行する側が単独でセットアップできるオープニングである。駒の移動順序は自由で、相手の駒の動きにも影響されない。(ただ、セットアップ中に攻撃を受けた場合は完了できないこともあり得る。)
代表的なシステム型オープニングは以下のとおりである。
- Colle System
- London System
- King’s Indian Attack
- Stonewall Attack